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船のいかりのような形をした熱い鋼の塊が、工場内で赤黒く光る。
クレーンの先端で荷をつるすフック。
幅20センチ、長さ40センチの耐荷重3トン用から、幅2メートル、長さ3.5メートルの1,000トン用まで、年間約4,000本を製造する。
国内シェアは約7割。日本で唯一のフック専門メーカーとして、世界の重機メーカーや製鉄所、物流会社に製品を送り出す。つり荷の重量を一身に受けるフックの品質の良しあしは、人命にも直結する。高い強度を備えた安全なフックを製造するには、古来から鍛冶(かじ)職人に通じる『鍛造』の技が欠かせない。
鋼を熱し、たたいて鍛えながら延ばし、形を整えていく。かぎが一つのシングルフックは棒状の鋼を、かぎ二つのダブルフックは丁子形の鋼を曲げて作り上げる。全工程は十以上にも及ぶ。
綱板をフックの形に切断して張り合わせる方法なら、工程は半分程度で済む。コストも低減でき、この方法を用いる海外のメーカーもある。ただ、鋼の組織の流れがフックの形状に沿っていないため、荷重を繰返し受けるうちに折れてしまう可能性がある。
鍛造だと組織の流れと形状を一致させられる。過度の重みで曲げた部分が伸びはしても、折れる事はない。『割高だと言われても製法を変える気はない』と横手暁社長(46)。
鍛冶職人の気概が、高品質と信用につながっている。
創業時、業界には明確な製品規格がなかった。クレーンの用途や大きさに合わせて一品ずつ設計し、製造した。その分、手間もコストもかかった。1969年、自社規格を『業界標準』にしようと打って出る。耐荷重ごとに強度を計算し、シングル、ダブルの両フックで各14種の標準シリーズを用意した。
効果的な受注、製造を可能にし、売上高は数年で10倍に達した。いつからか、自社規格に沿った他社製品が出回るようになった。横手社長は『コンピューターによる応力解析などを導入して現行製品を見直し、よりニーズに沿う製品を提供していきたい』と話す。
フックに託す社長の信念がある。『変えてはいけないものと、変えねばならないものがある』。それを見極めながら、世界のものづくり物流を備後から支え続ける。 |
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